たこ焼きもラーメンも「地元の味」で勝負——全米で「ご当地日本食」ブームが止まらないワケ
マンハッタンのイーストビレッジに、行列のできるたこ焼き屋がある。店主の大阪出身・森田ケンジさん(38歳)は、5年前に「本場の味をニューヨークに」という一心でフードトラックをスタートした。いまでは週末になると50人以上が並ぶ人気店だ。
「最初は『たこ焼きって何?』って聞かれてばっかりでした」と森田さんは振り返る。「でも一度食べてもらうと、みんなハマる。あの丸い形と、中のトロっとした食感——説明するより食べてもらったほうが早い」
これは、森田さんだけの話じゃない。いま全米各地で、日本の「ご当地グルメ」を引っさげた起業家たちが次々と登場している。
「日本食」から「地方の日本食」へ
寿司、ラーメン、うどん——アメリカの日本食はすでに市民権を得て久しい。でも最近のトレンドは、もう少し細かい。「どこの、何の料理か」にこだわる人が増えているのだ。
ロサンゼルスのトーランスに昨年オープンした「博多一番」は、まさにその典型だ。オーナーの福岡出身・西村さゆりさん(44歳)は、日本からわざわざ豚骨のスープベースを取り寄せ、「福岡の味をそのまま」をコンセプトにした。
「ラーメンって、今やLAにも無数にあるじゃないですか。だからこそ、差別化が必要で。うちは『博多の、あの味』って言い切ることにしたんです」
結果は上々。オープンから3ヶ月でYelpのレビューが200件を超え、日系コミュニティだけでなく、ローカルの食通たちにも口コミが広がった。
シアトルで広島焼きが愛される理由
一方、シアトルでユニークな存在感を放っているのが、広島焼き専門店「ヒロシマ・ヤキ」だ。オーナーの田辺浩二さんは広島出身で、大阪風お好み焼きとは一線を画す「重ね焼き」スタイルにこだわる。
「広島の人間にとって、お好み焼きといえば広島焼きなんですよ。でもアメリカではほとんど知られていない。それが逆にチャンスだと思った」
シアトルには日系コミュニティが根強く、第二次世界大戦中の日系人収容所の歴史とも深く結びついた街だ。そのコミュニティの中で、田辺さんの店は「文化的なよりどころ」的な役割も担っている。
「広島焼きを食べながら、お客さんが広島の話をしてくれるんです。原爆のこと、復興のこと、サンフレッチェのこと(笑)。食べ物って、そういう会話を生むんですよね」
「ご当地」にこだわる、3つの理由
なぜいま、「地方の味」がアメリカで刺さるのか。話を聞いた起業家たちの声を整理すると、大きく3つの理由が浮かび上がってくる。
1. 差別化できる
日本食レストランが飽和状態の都市では、「普通の日本食」では埋もれてしまう。「〇〇地方の、あの料理」という具体性が、強いブランドになる。
2. ストーリーが売れる
アメリカの食文化では、「誰が、どこで、なぜ作っているか」というナラティブが購買動機になりやすい。「大阪出身の店主が作る本場のたこ焼き」は、それ自体がコンテンツだ。
3. 日系コミュニティの郷愁を刺激する
アメリカ在住の日本人や日系人にとって、「地元の味」は単なる食事ではない。ふるさとへの接続点だ。「あの味が食べたい」という感情は、強力な集客力を持つ。
SNSが「ご当地」を加速させる
このブームを後押ししているのが、InstagramやTikTokの存在だ。
見た目のインパクトが強いたこ焼きや広島焼きは、動画映えする。森田さんのたこ焼きフードトラックも、TikTokで「くるくる回すシーン」が拡散されて一気に認知度が上がったという。
「日本のご当地グルメって、作る過程が面白いものが多いんですよ。たこ焼きのひっくり返し、広島焼きの重ね方、ラーメンのスープの炊き方……それ自体がコンテンツになる」と森田さんは言う。
また、日本旅行を経験したアメリカ人が増えていることも追い風になっている。「京都で食べた〇〇が忘れられない」という体験を持つ人たちが、アメリカでその再現を求めるケースが増えているのだ。
課題は「本物感」の維持
もちろん、課題がないわけではない。
食材の調達は悩みの種だ。本場の味を再現しようとすると、日本から輸入しなければならない食材が出てくる。コストがかかる上に、安定供給が難しいこともある。
また、「本物らしさ」を保ちながらアメリカ人の口にも合わせるという、永遠の難題もある。辛すぎる、しょっぱすぎる、量が少なすぎる——そういったフィードバックに、どこまで対応するかは店によって方針が分かれる。
西村さんは「スープの濃さだけは、少しアレンジしました。でもそれ以外は妥協しない。妥協したら、うちのアイデンティティが崩れる」と言い切る。
「ご当地」は文化の架け橋になれるか
全米に広がる「ご当地日本食」ブーム。それは単なるビジネストレンドを超えて、日本の地域文化をアメリカに伝える役割も果たしている。
大阪のたこ焼き文化、博多のラーメン文化、広島のお好み焼き文化——それぞれの背景にある歴史や人々の暮らしが、一枚の食べ物を通じてアメリカに届く。
「食べてもらうことで、日本のことをもっと知りたいって思ってもらえたら最高です」と森田さんは言う。「たこ焼きが、日本への入り口になればいい」
その言葉の通り、ご当地グルメの起業家たちは、料理人であり、文化の伝道師でもある。全米の日系コミュニティが、彼らの挑戦を後押ししている。