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「和食2.0」時代の到来:全米のシェフたちが挑む、伝統と革新の絶妙なバランス

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「寿司ブーム」の次に来たもの

カリフォルニアロールが全米のスーパーで当たり前に売られるようになって久しい。でも今、日系レストランの世界では「その先」を見据えた動きが加速している。単に「日本っぽい」料理を出すだけじゃ、もう通用しない。そんな空気が、業界全体に漂い始めている。

ニューヨーク・マンハッタンのトライベッカ地区に店を構えるシェフ、中村誠一さん(42歳)は、その最前線に立つ一人だ。彼のレストラン「結(ゆい)」は、ミシュランガイドNYCで二つ星を獲得。予約は数週間待ちという人気店だが、メニューを見ると面白いことに気づく。出汁を使ったブロスにパルミジャーノを少量溶かし込んだ「fusion」的な一皿があると思えば、その隣には純粋な京都スタイルの懐石コースが並んでいる。

「アメリカのゲストは、もう賢くなっていますよ」と中村さんは笑う。「10年前なら『出汁って何?』という質問が多かった。でも今は、日本酒のペアリングを自分から聞いてくれるお客さんが増えた。だから、こちらも本気で向き合わないといけない」

ローカルの食材で「和」を表現する挑戦

一方、ロサンゼルス・アーツディストリクトで注目を集めるのが、シェフの吉田明美さん(38歳)が率いる「土(つち)」だ。ミシュランのビブグルマン(コストパフォーマンスの高い優良店として認定)を獲得したこの店のコンセプトは、「カリフォルニアの土地で育った食材で、完全な和食を作る」こと。

セントラルバレーで採れたオーガニック野菜を使った煮浸し、サンタバーバラ産のウニを使った茶碗蒸し……。見た目は正統派の和食でも、その素材はすべてローカル産。これが、L.A.のフードシーンに敏感な層に刺さった。

「日本から食材を輸入するのが『本物』という時代は終わった気がします」と吉田さん。「むしろ、ここアメリカの豊かな食材に、日本の調理技術と思想を掛け合わせることが、今の時代の本物じゃないかと思っています」

このアプローチは、サステナビリティへの関心が高い若いアメリカ人客にも響いている。インスタグラムでのバイラル投稿が続き、週末のウォークイン客の列が絶えないという。

地方都市に広がる「知られざる名店」

大都市だけの話ではない。オレゴン州ポートランドに2020年にオープンした「森(もり)」は、地元のフードメディアが「ポートランドで最も予約の取れない店」と称するほどの人気を誇る。オーナーシェフの田中浩二さんは、もともと大阪のミシュラン店で修業した後、コロナ禍のタイミングでポートランドに移住。「大都市ではなく、食文化に敏感でかつコミュニティが温かい場所で店を開きたかった」と話す。

テキサス州オースティンでも変化が起きている。急速な人口増加と多様化が進むオースティンでは、日系レストランの数が5年間で倍増。その中でも「暖簾(のれん)」は、ラーメンとバーベキューの組み合わせという一見無謀なコンセプトで話題を集めている。スモークした豚骨を使ったブロスに、テキサス名物のブリスケットをトッピング——これが地元民に大ウケし、週末は開店前から行列ができる。

「テキサスの人はBBQが誇りでしょ。それを否定するんじゃなくて、一緒にやってみようと思ったんです」とオーナーの松本健太さん(34歳)はいたずらっぽく笑う。

日系コミュニティが果たしてきた役割

こうした革新の裏には、長年にわたって日系コミュニティが積み上げてきた基盤がある。食材の輸入ルート、日本人シェフのネットワーク、そして何より「本物を知っている」お客さんたちの存在だ。

ロサンゼルスのリトル東京や、ニューヨークのイーストビレッジにある日系食料品店は、今も多くのシェフたちのライフラインだ。みりん、醤油、だし昆布——これらを安定して仕入れられる環境があってこそ、本格的な和食が成り立つ。

「日系コミュニティの先輩たちが何十年もかけて作ってきたインフラの上に、私たちは立っている」と中村さんは言う。「感謝しかないですよ、本当に」

次の10年、和食はどこへ向かう?

食のトレンドに詳しいフードライターのジェシカ・タナカさん(日系三世)は、この流れをこう分析する。「アメリカのダイニングシーンは今、『本物体験』への需要が高まっています。インスタ映えだけじゃなく、食の背景にあるストーリーや文化を知りたいという人が増えている。その点で、長い歴史と哲学を持つ和食は、圧倒的に有利なポジションにあります」

AIを使ったメニュー開発や、デジタルを活用したストーリーテリングなど、テクノロジーとの融合も始まりつつある。でも、シェフたちが口を揃えて言うのは「技術はあくまでも道具」ということ。大切なのは、食べる人に何を伝えたいか、という思いだ。

全米の食卓で、静かに、しかし確実に、「和食2.0」の時代が幕を開けている。その主役は、伝統を守りながらも恐れずに新しい扉を開くシェフたちと、彼らを支える日系コミュニティの人々だ。あなたの街にも、きっとそんな一軒があるはず——ぜひ、探してみてほしい。

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